<シンポジウム報告>

シンポジウム

世界を変えた民族紛争
−ユーゴスラビア本当のお話−

2005年11月26日開催

 1.シンポジウム内容
第一部 講演会 13:30〜14:50
司会 富永 玲子(旧ユーゴスラビア交流の輪・慶応大学3年)
1、代表挨拶(小坂) 3分
  シンポジウム予定及び趣旨説明、旧ユーゴの簡単な説明
2、NPO法人ジェン(JEN)理事・事務局長 木山 啓子氏 講演20分 
 「紛争下の人道支援」
1994年から2004年までJENで行われた旧ユーゴでの支援活動と当時の旧ユーゴの様子を報告。人々が自立して生きていくために心のケアが重要であることを説明し、プロジェクトを紹介した。そして、旧ユーゴで暮らしているのは、私たちと何ら変わらない人たちであることを強調した。最後に、今後も彼らが自分の人生を幸せだと感じられるよう、現地団体を通して心のケアと自立の支援を継続していきたいと述べた。

  
3、NPO法人ADRA Japan 事業部長 橋本 笙子氏 講演20分
 「紛争を経たアルバニア人〜憎むことをやめる本当の勇気」

コソボにて紛争直後の1999年から支援活動を行ってきた橋本氏が、現地の人々に焦点を当てコソボの様子を語った。民族に関係なく人を愛することを子どもたちに教える教師の姿や、深い傷を負っていた少女が献身的な治療の末に笑顔を見せた話など。いまだ混沌とした状況下にあるコソボの課題を取り上げ、「忘れない・関心をもち続ける」ことをメッセージとして表し続けることによって、旧ユーゴを支えていく必要性を訴えた。

4、サラエヴォ・フットボール・プロジェクト(SFP)代表 森田 太郎氏 講演20分 
 「サッカーが越えた民族の壁〜スポーツが支えた真の交流」
紛争後、民族が分断されたボスニアの状況を報告。そして首都サラエボで民族融和を目指して少年サッカーチーム「FKクリロ」を発足し、チームと共に歩んできた異民族間の交流を伝えた。サッカーをするために子どもたちが境界線を越えたこと、民族融和の理念を保護者にも広げることができたのは現地の人々の熱意があったからこそだと熱弁した。そして最後に、来場者に向かって「ぜひボスニアに行き、彼らの姿を見てほしい」と語った。

5、旧ユーゴスラビア交流の輪 副代表・神奈川大学 大石 結 講演8分 
 「学生が見た旧ユーゴ 現在の光と影」
ボランティア体験を通して見てきた旧ユーゴの現状を、学生の視点で報告した。解決の見通しが立たないまま残された難民キャンプや消えることのない人々の心の傷、一方で復興を遂げた美しい街並み、そして活動を通して現地の人が見せてくれた笑顔を紹介し、旧ユーゴの「影を忘れないで、光に気付いて」と訴えた。
6、三井住友海上火災保険(株) 社会貢献室 山ノ川 実夏氏 プレゼンテーション3分
有志の社員によって運営されている社会貢献室「スマイルハートクラブ」。そこで行っている、旧ユーゴ支援のためのチャリティクリスマスカードや、日本のボランティアによる手編みのセーターを届ける取り組みについて紹介した。「忘れないでいてくれてありがとう」。遠く離れた日本の地から想っている人がいることが、彼らの心の支えになっていると語った。
7、NPO法人 危機の子どもたち・希望(ACC)の紹介 1分
    第二部参加と、ブースの説明
8、挨拶(司会) 1分  第二部及び休憩時間(コーヒー試飲・ビデオ上映・物販)の説明
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JENの木山氏
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ADRAの橋本氏
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SFPの森田氏
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三井住友海上火災保険の山ノ川氏
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当団体副代表の大石
 
第二部 パネルディスカッション 15:05〜15:45(16:10まで延長)
コーディネーター 関能徳(旧ユーゴスラビア交流の輪・早稲田大学大学院修士2年)
1、岡島 アルマ氏 自己紹介・特別講演10分
「あれは民族の紛争ではない−」。旧ユーゴ出身で、現在外務省語学研修所の語学講師を務めている岡島氏。「私たちはそれまで長く仲良く暮らしていた。自分がどの民族かなんて考えたこともなかった」と、不安定な経済状態の中で一部の者たちが自己利益のために民族を利用したものだったと振り返った。そして最後に、「私たちはこの世界の中で仲良く暮らさなければならない」と訴えた。


2、竹内 めい氏 自己紹介・ACC団体紹介5分
NPO法人「危機の子どもたち・希望(ACC)」で学生部長を務める上智大学の竹内氏。「心理社会支援」という、ACCの旧ユーゴでの活動を紹介した。そして、セルビア人の友人ができたことからボランティアを始めたというきっかけについて語った。
3、パネルディスカッション

テーマ「私たちが今、できること」
竹内氏に引き続き木山氏・森田氏が国際協力活動に携わるようになったきっかけから始まった。木山氏は、「きっかけは特になく、目の前の仕事に一生懸命取り組んでいたら自然に」という。そして、大学時代の部活動で気付いた、「限界は自分の頭の中にある」ということを伝えた。そして「英語ができない、お金がないと思うかもしれないけれど、自分にできる支援は絶対ある!」と締めくくった。森田氏は高校時代バスケに打ち込む中でセルビア人選手に興味をもったというきっかけに触れ、「まず動き出すと必然と『やらなきゃいけない』ことがでてくる。そうしたらその時にやればいい」と自身の経験を振り返りながら来場者に語った。大石・竹内氏も自らの体験からこれらに賛同した。岡島氏は旧ユーゴ出身者としての立場から、「旧ユーゴで暮らす人々の優しさや美しい風景などに触れてほしい。ホームステイやスタディツアーをはじめとして交流できる方法はたくさんある」と来場者に呼びかけた。
次に、来場者からの質問を受け付けた。「平和構築とは?」との問いに対し、木山氏は「まずは信頼醸成が必要」と述べ、さまざまな要素があるが、民族の名のもとに悲惨な紛争を繰り広げさせられた人たちが、悲しい記憶を乗り越えて「一緒に住むこと」が大切だと民族共生の視点から答えた。
4、パネリストから来場者へのメッセージ
大石 : 「自分たちにもできることはたくさんあると思う。身近なところからでいいので、まず何か行動してみて欲しい」
竹内氏: 「やりたいことがあるなら"今"する・知るべき。知ろうと努力すること、そして忘れないことが大事」
森田氏: 「"一期一会"という言葉。私が活動を続けてこられたのは、"人"がいたから。皆さんも多くの素晴らしい人に出会い、その出会いを大切にしてほしい」
木山氏: 「JENからの5つのお願い。"知る・行動する・継続する・忘れない・伝える"、これを今日から実行すれば、世界は変わる」
岡島氏: 「日本も地球の一部。この地球は一つであって、私たち一人ひとりがつくるもの。地球人としてこの世界を美しく、平和にしていこう」
5、挨拶(司会) 2分
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パネルディスカッション
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岡島アルマ氏
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ACCの竹内氏
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当団体の関(コーディネーター

 2.来場者の声―(アンケートより一部抜粋)
  • 講演者の皆さんの情熱がとてもよく伝わる会だったと思います。皆さんと同じ時間を共有できたことをうれしく感じました。
  • 「許す勇気」についての話がとても印象に残りました。世界的に平和だといわれている日本の中でさえ憎しみは存在し、それを許すことができないままの人たちがいる。肉親を殺された人の憎しみは想像を絶し、簡単に消すことはできないと思います。でも、それができたとき、大きな希望が出てくると思いました。
  • 「学校を卒業して夢をもった学生が、手にしたのは武器だった」という話を聞いて涙が止まりませんでした。
  • アルバニア人の校長先生の言葉に感銘を受けた。
  • 私は現在サッカー関係の仕事に転職しようとしている社会人です。この仕事でも何かのお役にたてるような活動をしたいと思っています。また、ユーゴ関係のサッカー界から今回のことに関心を持ちました。
  • 私の友人にブコバル出身のセルビア人がいます。彼は、サッカー選手のミハイロビッチの親友です。しかし、彼もミハイロビッチも故郷に帰れない状況が続いています。いつの日か帰れる状況になるように、ささやかながらも何か行動したいと思っています。
  • ストイコヴィッチが好きでユーゴに興味を持ちはじめ、ちょうどその頃高校で卒論を書かなきゃいけなかったから、ユーゴ紛争とサッカーについて書きました。読んだ本から興味を持ち、さらに今の大学で国際協力と教育に興味を持ちました。少しはしょりますが、今日の講演はどれも感銘を受けるものばかりでした。これが自分の中でいいきっかけになるといいなと思いました。
  • どの方の講演も印象に残るものだったが、特に、私とほとんど同世代の竹内氏や大石氏の「何かをしなければならない」という一途な思いを、行動に反映されているところが素晴らしいと思った。
  • 私はユーゴについてあまり知る機会がありませんでしたが、このシンポジウムを通してユーゴについて及び世界の紛争について考えることができました。教育の場で、子どもたちに世界に目を向けさせていきたいです。
  • NGO、学生、現地の人とそれぞれの視点から旧ユーゴのことが語られていて、旧ユーゴが抱える問題の多様な背景が伝わってきて、本当に充実したシンポジウムでした。
  • とても興味深い話ばかりでした。自分でまた勉強しようと思います。
  • 民族紛争の真の解決に触れた気がした。
  • 「民族を意識したことはなかったが経済の問題があった」というお話がすごく大事だと思いました。「政治家が煽った」 「これは民族の紛争じゃない」という戦争の根拠の捉え方が未来に向けてもとても重要だと思います。
  • 森田氏・岡島氏は3民族が共存していたことに触れていたのがよかった。"民族が違うと対立する"という前提では、ユーゴ紛争の解決の道が見えなくなると思いますので。
  • 竹内さんと今の自分がリンクしていて、勇気付けられました。
  • 学生の身分で国際協力するということに、一種のためらいを感じていたのだが、みんな自然体で、自分にできないことをやっていて、そこに共感しました。
  • 私はこのようなシンポジウムに参加したのは初めてでしたが、本当に勉強になりました。これからの大学生活、アンテナをさまざまな所に向けていきたいと思います。
  • ユーゴスラビアの「今」を知る、活動を知るというメインのお話が聞けてとてもよかった。そのプラスアルファで更によかったのが、「ユーゴスラビア」と限らず、世界が少しでもすてきになるために"自分"からできることが"誰にでもある"というメッセージがつまっていたような気がすること。それがとてもよかった。
  • 大学の平和学の授業で民族問題に興味を持ち、参加したのですが、私たちにできることもたくさんあると気付けるいい機会になりました。ありがとうございました。
  • 木山さんの5つのお願いは、本当にもっともなことだと思いますが、僕は知ろうとは思うんですが、行動しようとまでは思わないんですよね。なんででしょうか?自分でも分かりません。
  • 若い人が多かったのに気をよくした。こういう活動に若い人たちが積極的に参加して世界を知ることが平和にとって重要であると思う。
  • 自分が何も知らなかったことを知った。今回参加して自分も何かやりたいと強く思った。
  • これから、いつか必ず現地に行って、何か自分にできることを探したいと思いました。
  • 各発表者が実体験に根ざした現地の声を伝えていた点がよかったと思います。
  • 学生さんらしいさわやかな運営で良かったです。おつかれさまでした。
  • 今回のように、まず知ってもらうこと、そして、その活動が続けられることが大切だと感じました。
  • 今回は貴重な勉強をさせていただきありがとうございました。今まで、意識もしていなかったことについて、関心を持つきっかけになりました。
  • 紛争で傷つき、苦しんでいる人々を支援する皆さんの活動には敬意を表します。その際に、岡島さんの言われたような戦争の根拠をユーゴの人とともに探っていかないと、心の傷を本当にぬぐっていくのは難しいという気がしました。それから、日本は平和でユーゴとは関係ないという前提は今は成り立たない時代だという認識は、ユーゴとつながっていくために不可欠と思います。岡島さんの最後の言葉ともつながりますが。
  • もう少し、時間に余裕を持ったほうがいいと思った。せっかくの機会なのだから、もっとお話を聞ければよかった。
  • 時間配分をコントロールしていない。言いたいことが多いのは分かるが、それに甘えすぎている。
  • 世界平和は可能だと思いますか? 戦争のキズアトにはそのヒントがゴロゴロ転がっていると思います。精神的平安が全ての人々の心に訪れますように・・・。
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多くの来場者で会場は満員になりました。
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パネリストによる現地での様々な体験談では、笑いのこぼれる場面も。
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各参加団体のブースで旧ユーゴに関する物品の販売や活動紹介などが行われました。
3.「シンポジウムを終えて」 代表 小坂妙子
 シンポジウムには本当に多くの方にお越しいただきました。皆様、ご来場ありがとうございました。
一人ひとりの方が真剣に講演を聞いてくださっている姿を拝見し、本当に嬉しく思いました。また、アンケートにも当初考えていたよりたくさんの方がメッセージを書いてくださり、旧ユーゴスラビア交流の輪一同で感動いたしました。

  また、このシンポジウムは多くの方に支えられ実現しました。
ご協賛いただいた三井住友海上株式会社の山ノ川氏は、こちらが何かをお願いする前にいつもご準備してくださり、当日のプレゼンテーションまでご協力していただきました。勉強させていただきました。

 無料で教室をお貸しくださった津田塾会の皆様は、こちらが会場の下見に伺う度に相談に応じてくださり、コーヒーを作るための火災探知機の位置から必要な印刷物などにいたるまで、当日も相談にのっていただきました。

 JENの方々には一番長い間お付き合いいただきました。大変お世話になったこともあり、このシンポジウムを「絶対に実現させたい」と最後まで頑張りとおすことができました。

 ADRAの橋本氏は突然の無理なお願いにもいつもご親切に対応してくださいました。講演の中でも私の名前をだしていただき、その時には裏にいた私の所にメンバーが「今、橋本さんが小坂の・・」と駆けつけてきました。

 SFPの森田氏は運営の面までずっと応援してくださいました。旧ユーゴスラビア交流の輪には森田さんのファンがたくさんいます。
岡島氏は急なお願いにもかかわらず快くご出演をお受けくださいました。

 ACCの皆様は、上智大学にチラシを配りに行った際の広報活動までご協力いただきました。

  他にも、誠にたくさんの方がお忙しい中ご協力してくださいました。感謝すると同時に、いかに多くの人が日本で、紛争が終結した現在まで旧ユーゴを想い続けていらっしゃるかを学び、感動いたしました。来場者のアンケートには「私も旧ユーゴに行こうと思った」「忘れないことの大切を学んだ」という声が多々あり、私たちのメッセージが伝わったのだと大変嬉しく思っています。

  本当にありがとうございました。