シンポジウム報告書
公開日:2007年6月5日
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旧ユーゴスラビア交流の輪は、2006年11月24日、東京・代々木のオリンピック記念青少年総合センターにて、「民族を超えた共生―旧ユーゴスラビアの今と未来―」と題したシンポジウムを開催致しました。当シンポジウムでは、当団体メンバー製作の映像による現地報告を行い、その後旧ユーゴ専門家、現地出身の方、現地訪問経験のある学生などが同地域の今後について来場者と共に考えました。

報告書
シンポジウム
「民族を超えた共生―旧ユーゴスラビアの今と未来―」

1.シンポジウム内容

第一部 基調報告 19:00〜19:30
「旧ユーゴスラビアの現状」


報告者:富永玲子 (旧ユーゴスラビア交流の輪/慶應大学法学部政治学科4年)
     舘野七帆 (旧ユーゴスラビア交流の輪/神奈川大学法学部自治行政学科4年)

 

内容:2006年夏に旧ユーゴ諸国を訪問した学生による旧ユーゴ地域の現状報告。コソボ、セルビアの難民キャンプ、ボスニア・ヘルツェゴビナなど。

 

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第二部 パネルディスカッション 19:45〜21:00
「共生からの平和構築」


コーディネーター:渡邉睦 (旧ユーゴスラビア交流の輪/一橋大学大学院社会学研究科修士1年)

パネリスト
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柴宜弘氏
(東京大学大学院総合文化研究科教授)
河原仁氏
(外務省中・東欧課地域調整官)
岡島アルマ氏
(旧ユーゴスラビア出身/語学講師)
田淵大輔氏
(文教ボランティアズ代表/文教大学国際学部国際関係学科3年)

 

内容: 最初に各パネリストによる自己紹介。

 

次に「共生」についてのディスカッション。

 

田淵氏が訪れたボスニアのユースセンターでは受け入れ対象が単一の民族に統一されている現状に触れ、共生は難しいのではとの意見が出された。

 

これに対し岡島氏は、「私たちは紛争の前までは仲良く暮らしていた」と強調。

 

河原氏は、チトーの時代も「兄弟愛と統一」を演説の度繰り返し国民に訴えるなど、共産主義や人民軍の縛りをつけなければならなかったほど共生は難しかったと発言した。

 

柴氏は75〜77年に自身が旧ユーゴにいた時は民族的な対立をあまり感じられなかったことに触れ、ユーゴ解体については宗教紛争や民族紛争だけでなく、社会主義崩壊の過程の中での出来事であるという視点を失ってはいけないと指摘した。民族感情を煽る政治家がどこにでもいて、それが民族紛争に転化していったと説明、歴史教科書の問題にも触れた。90年代から自己中心的な教科書が改定されていき、スロヴェニア、クロアチアでは複数ある教科書の中から使用するものを選択できるが、ボスニア、セルビアでは一種類の教科書しかなく政治と教育との関係が密接になっている。そのような中、オルタナティブな形で共通の歴史資料集をバルカン12カ国で作る動きが出ており、実際に昨年度には英語で出版されたことを紹介した。

 

最後に田淵氏がボスニアの強制収容所で暴行などの被害にあったムスリム人に「私の骨を砕いた犯罪に対しての憎しみはあるが、セルビア人という民族への憎しみは抱いたことがない」と言われたことを話し、民族自体を憎むのではなく、彼らが犯した行為そのものを怒りの対象とみなしている人が増えていることで共生への希望が見えてくるのではと発言した。

 

また、「日本にいる私たちにできること」についてのディスカッションも行われた。

 

河原氏が04年、西バルカン平和定着・経済閣僚会合を日本とEUが共催したことに触れた。そして、政府レベルに限らず、NGOなどあらゆるレベルで関わっていく必要があると発言。

 

岡島氏は、スポーツや音楽を通しての文化交流がもっとも簡単であると述べた。そして日本も地球の一部であり世界は一つなのだから、一人ひとりが責任をもってこの世界をつくり上げていくべきだと締めくくった。

 

最後に、質疑応答を行いパネルディスカッションは幕を閉じた。

 

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パネリストと来場者との質疑応答

 

2.来場者の声―(アンケートより一部抜粋)

  • 岡島さんの「憎しみは育てない」の言葉はその通りだ。こういった言葉を胸に生きていけば平和になると思う。日本とアジアの関係もそうしていいものにしていきたい。今日は本当にありがとう。
  • NGO職員などの話も聞いてみたかった。
  • 物質ではなく、考え方を変えていけるような支援が大切。旧ユーゴを手本にして日中韓の関係についても考えていかなければと感じる。
  • 各団体の販売ブースがよかった。
  • 学生の皆さんが主体となって社会にユーゴ問題を呼びかけていくのは大変すばらしい。これからの益々のご活躍を期待しております。
  • 旧ユーゴの紛争が遠いどこかの国の出来事ではなく、少しでも自分自身に引き寄せて考えることが必要だと感じました。
  • 柴先生の話が特に印象に残った。バルカンの資料集が楽しみ。こういう企画がまたあれば是非参加したい。
  • 最もユーゴについて考えさせられた時間でした。基調報告をたたき台にしてパネディスをしてもらいたかった。
  • 意見の相違を明確にして結論を導いてほしかった。議論が深まるよう司会をしてほしかった。
  • 質疑応答の時間が短かった。

3.「シンポジウムを終えて」―旧ユーゴスラビア交流の輪 代表 小坂 妙子

このシンポジウムは、昨年度同様、誠にたくさんの方々にご協力頂き、実現することができました。ご協賛を頂いた三井住友海上スマイルハートクラブ様、ご協力頂いたNGOの皆様、パネリストの皆様、当日ボランティアの方々に深く御礼申し上げます。

三井住友海上スマイルハートクラブの山ノ川氏には昨年度のシンポジウム同様、変わらないご理解、ご協力を頂きました。

当団体スタッフが現地で取材するにあたり、ADRA Japanの橋本様、国際ボランティア連絡会議の須田様、サラエヴォ・フットボール・プロジェクトの森田様には、現地滞在のコーディネートをして頂きました。

帰国後、映像編集にあたり、JENの浅川様、岡島アルマ様に通訳のご協力を頂きました。パネリストの柴様、河原様、岡島様、田淵様には、ほとんどボランティアのような形でご出演いただきました。昨年度に引き続き、紛争が終結した現在まで日本から旧ユーゴを想い続けていらっしゃる方々の多大なるご協力に、胸のつまる思いでした。

当日は114名もの方にご来場頂きました。一人ひとりの方がアンケートにたくさんのお声をお寄せくださいまして、スタッフ一同で必死に読みました。ご来場いただいたボスニアやセルビアご出身の方々が「ありがとう」とお声をかけてくださった時は、少し驚き、旧ユーゴの人と日本の人との交流の輪が広がっていることを感じ、大変嬉しく思いました。

他にも、取材してくださった毎日新聞の澤田様、各大学でチラシを配布してくださった方々、当日ボランティアとして力をお貸しくださった方々など、多くの方々にご協力頂きました。

私たちは、紛争を経験した旧ユーゴの人々と日本の人々が互いの理解を深め、友情を育むことで、それぞれがより暮らしやすい平和な社会を築くことを願ってやみません。このようなシンポジウムがそのための第一歩となることを期待しています。

これからも、活動を充実させていきたいと考えておりますので、今後ともよろしくお願いいたします。皆さまのご理解とご協力に再度心より御礼申し上げます。